寮生インタビュー:メンタルヘルスと学生寮での暮らし


今回の寮生インタビューはすこし重いけど重要なテーマ「メンタルヘルス」を扱ってみようと思います。メンタルの問題は大学生活につきものですが、自分が当事者になると考えているひとはあまりいないと思います。東北大学の学生にとっても珍しい話ではありません。当事者の寮生と話しながら、学生はメンタルの問題とどう向き合うべきか、セーフティーネットである学生寮になにができるのかを考えてみようと思います。


大学に行けなくなるまで

HIDA:聞き役のHIDAです。たまに高草木が元気がなさそうな時に車で外に連れ出したりしています。

高草木:どーも、現在工学部3年の高草木です。日就寮に住み始めてもうすぐ1年。一年生の夏頃から躁鬱の症状に悩まされていて、サークルを抜けることになったり授業に継続的に参加できなくなりました。現在は心療内科や、東北大の学生支援室、そして何より日就寮で暮らしながら穏やかに暮らしてるところです。最近奮発して高いPCを買ったぞ!

HIDA:まず、なんでこんなテーマを持ち出したかというと、大学生で鬱だったり精神を病む人がたくさんいて、最近そういう相談に乗ることがすごい多かった。

高草木:大学入学前にそういうことを考える人っていないわけじゃないですか。みんな大学入ることにワクワクしてる。でも、忘れないでほしいのは、大学生ってものすごく精神を病む人が多いんです。留年率は2~3割で、その大半が精神的理由からだと聞いています。

HIDA:私の友人にも、途中で精神を病んで大学を卒業できていない人がたくさんいます。そういう人にとっての大学を卒業する手段、セーフティーネットとして学生寮を捉えなおすような話をしてみたいなと思います。

高草木:よーし!

HIDA:じゃあ、高草木がこれまでどう大学生活を送ってきたのかについて軽く聞いてもいいですか?

高草木:最初の方でも言いましたが、東北大に入学した当初は活力溢れる普通の大学生って感じでした。ただ、初夏あたりから授業に出れなくなったり、サークルで知り合った人との連絡が苦痛になってきました。

HIDA:なるほど。初期はそんなに元気溌溂って印象でもなかったけどね。

高草木:好奇心は人一倍ありましたね。最初は原因もわからず、サボってしまったなーくらいの感覚だったけど、今思うと完全にオーバーワークでした。忙しいサークルに二つ加入してたり、たくさん授業をとってみたりで徐々に日常生活が大変になってきて後期はほとんど授業に出れなくなっちゃいましたね。

HIDA:上から目線だけど、好奇心旺盛な大学生って、みんな1年生の前期で絶対に取り切れない量の授業とっちゃうよね。大学受験のノリでなんとかこなすけど。私もそうだった。

高草木:受験期が充実してなかった分、取り返そうとしちゃうんだと思います…。さらに僕の場合は元々躁鬱気質があった(後日判明する)みたいで。一年生の終わりはまぁ苦しかったです。

HIDA:大学行けなくなってからはどうしてたの?

高草木:ぶっちゃけ、ほとんど記憶がない…。一日中ほとんどベッドから起き上がれなかったり、ご飯が全然食べれなかったりでとにかく不毛でした。どうせ休むのだから好きなことでもするか!なんてエネルギーは皆無でした…。

HIDA:後期からってことは、僕が連絡をとらなくなった時期だよね。すぐにそんな感じになってたとは知らなかった。

高草木:でも、HIDAさんのアドバイスのおかげで病院にいく踏ん切りがつきましたよ!それまでは自分が心の病気かどうかが自信なくて、ただ怠けてるだけなんじゃいかって自分を責めることが多かったですけど、「健常な生活を送れていないのなら、心持ちに関わらず障害だから診てもらいなよ」って言葉に納得したおかげで病院に行けました。

再スタート

HIDA:当然ながら、大学生活を再スタートさせようとなにかしたら試みたと思うんだけど、それはどうだった?

高草木:病院では病気の特定とそれに合わせた服薬を。大学は学生支援室やカウンセリングに定期的に通ったり、その結果一時的に休学するっていう選択肢を取りました。この休学は自分の中でも大きな判断だったけど、結果的には自分のためになったと思ってます。

HIDA:なにが辛かった?

高草木:症状に個人差はあるのだけど、僕の場合鬱の時に全く動けないせいで家事が滞って、買い出しにもいけないから食料不足になりました。下手に食欲がない分、ほっとくと栄養失調になるんじゃないかっていう危うさがありますね。あとは、大学に行けない、外に出れないことで「社会に所属してる感」がなくなるっていうのは相当心にダメージがきます。一人でいればいるほど思考が負のスパイラルにハマって、希死念慮に苛まれるのが辛いところ。

HIDA:僕のところに連絡が来たのは2年の終わりだったよね?当時はどうだった?

高草木:そのころは通院のおかげもあって、そこまで酷い状況ではなかったです。ただ今まで住んでたUHを2年の年限で退去するのもあって住居探しをしないといけない状況で、正直路頭に迷いかけてたかも。いままで自分が不調のときにはUHの仲間が助けてくれてたおかげで命を繋いでた実感があるから、どうしたもんかと。そんな中で「そういや途中で謎の寮に住んでる先輩いたな」って思い出して連絡しました笑。

HIDA:びっくりしたよ。高草木の近況をまったく聞いてなかったから。

HIDA:日就寮は経済的に困窮した学生のセーフティーネットであることを一貫して重要視してきたけど、これまでメンタルヘルスという観点はあまりなかったように思う。「留年・休学」したら寮に住めないという規定はおかしいからという理由で、留年者も住ませてきたりはしたけど。

高草木:自分のもつ病に向き合うっていう「前向きな」休学もダメとなると、経済的にもメンタル的にもかなりきついですよ…。

HIDA:もう卒業した人だけど、8年かけて卒業した先輩がいたんだよね。いまは国家公務員になって立派に働いてるけど、やっぱりああいう人を見ていると、もっと大学はドロップアウトしかけてる学生を「怠惰」だとみなすようなやり方はやめてほしいと思う。奨学金の停止とか、寮からの排除とか。本当に福利厚生を必要とする学生は、そういう学生なんじゃないのかな?

寮での生活を通して

HIDA:寮で暮らしてみてどうだった?

高草木:ご飯が作れなくなったり、買い物にいけなくなってしまった時に助けてもらえるというのはとてもありがたいです。ここだとお互いのリスペクトがあるから、僕の不調が原因で助けてもらいたい、って説明すると協力してくれる。そんで、僕の場合元気な期間もあるから、その時に多少なりともみんなの役に立とうとする。そのサイクルがあるおかげで、単に「施しを受けている」という気分にならないのも自分にとってはありがたい。

 さらに、最悪大学に通えずとも「自治」としての活動があるおかげで自分の「社会感」が保てて、おかげで不調のせいで死んでしまいたいと思うことがかなり減りました。これは自分にとっても発見でしたね、入寮前は寮での仕事(風呂掃除や委員会とか)が自分にとって足枷にならないか心配でしたから。

HIDA:ところで躁鬱のきっかけってなんだったのかわかる?大学生活で辛い思いをしたこととかはなかったわけでしょ?

高草木:僕の場合、心の不調のきっかけは日常生活の乱れです、というか医者に聞くと大抵がそうらしい。食べる回数が減る、睡眠時間が減る、生活リズムが逆転する、その積み重ねで崩壊しちゃいます。逆に言えば、上記に気をつけることが1番の予防になります。

HIDA:やっぱりそうなんだ。僕の知ってる人もたいていそうだったな。うまく生活してるように見えても、一部の人を除けば、ひとりで完璧に生活を送れる人なんていないからね。みんなどこかで生活に問題を抱えるし、それが致命的なところになると一気に反転してしまう。もちろん、お金をかければ解決できる問題も多いけど、大学生には無理だからね。

高草木:そもそも1人暮らしが無理なのかもとは思います。人間みんなそんなにうまくできてない。ある程度ほかの人と協力しないと生活できないことって当たり前だけど、ひとり暮らしが当然視されてるから生活が崩壊しても助けを求められない。

HIDA:そうだね。一人暮らしを自明視する必要はないと思う。

高草木:あと、僕みたいに自分に何かしら他の人と比べてハンデがある場合って、「世間一般で言われる大学生活」をするほどの余裕がないわけですよ。授業にでて、バイトをして、サークルに入って…みたいな。でも寮にいるとどの要素も最低限入ってる気がしますね。寮がコミュニティとしての役割をしっかり果たしている分、友達も見つかるし仕事もあるからサークルのような側面もあるし、卒寮生との交流もあるから人生相談なんかもできる。寮費も安いからバイトをしている気分にもなる!!…のはさておき、自分の好きな趣味をやる余地が寮にあるのも面白い。住んでるところで楽器を演奏できたり歌を歌えたりする場所なんてそうそうないよ!

HIDA:良い面だけ強調すると胡散臭く聞こえますよ!

高草木:ここでなんでも完結しちゃう分、外に出ないと生きていけない!って危機感がないから、よくないかも笑。いまは3年生からでも入れるサークルを探して見学に行っています。

寮の今後にむけて

HIDA:ここまで話してきたけど、寮としてメンタルに問題を抱える学生に対してなにができるのかをあらためて考え直す必要があると思った。上の代の人たちがやってきたことでもあるし、私もそうするようにしてるけど、ずっと外出てなかったり飯を食ってない人間がいたら車で飯に連れだしたりね。でも、セーフティーネットを謳う寮である以上、もっとやれることを考えてもいいと思う。

HIDA:この記事を読むのは入学前の人が多いと思うけど、そういう人に対してなにを言えるかな?

高草木:まず、あらゆる人がこうなる可能性があるという事実を認識すること!これは大学入学者の内の2~3割はなんらかの不調を抱えるっていう、確率的に起こることだから、自分がそういった不調で悩むことがあったとしても、それは普遍的にありえることなんだって、安心してほしい。あと、もしかして病みがちかも…って不安なのだとしたら、周囲に助けてもらえる人がいるかどうかが大事になることも知っていて欲しい。数ヶ月も引きこもってしまうって時は周りから助けてもらうのが1番手っ取り早いんだけど、そうでないと最悪命に関わる。もっとも「命」までは行かなくても、大学生活でつまづいた時に相談先や協力してくれる人が皆無だとそのままなすすべもなくドロップアウトしかねない。

HIDA:もしどうしようもないと思ったら日就寮は「駆け込み寺」にもなれるので、東北大生ならだれでも遠慮なく連絡してきてほしいね。