なぜ「学生自治」を貫くのか
日就寮は「学生自治」によって運営されています。このような運営形態に関し、様々な形で言及をされるので「学生自治」について日就寮がもつ考え方を丁寧に説明しようと思います。
私たちが学生自治を貫くのには、学生の自由のためです。そして学生自治は主にふたつの自由を学生に対してもたらします。
経済的自由
日就寮は東北大学のあらゆる学生に学問の自由・教育の機会均等を保障するための厚生施設です。その「厚生」というものの中身の一つは安く住めることですが、そのことが大学生にとって持つ大きな意味についてお話します。
日就寮に住むと寮費の安さとゼロに近い初期費用、様々な物品の共用などによって生活にかかるコストを大きく下げられます。それは単純に一人暮らしに比べて何万円浮くというような金額の問題に収まらない大きな意味を持つことになります。
大学の学費が昔と比較してはるかに高騰していることはよく知られています。大学生は生活コストの他に、年間535,800円(学部生・院生)の学費の支払いを背負っており、そしてこのことは様々な側面から学生の自由を阻害しています。
最も身近な例は、多くの学生はアルバイトにあまりにも多くの時間を割かざるをえないということです。学業や活動から学生を遠ざけるばかりか、無理な労働によって体を壊し、また精神を病んでしまう人も多くいます。
奨学金も大きな問題です。連帯保証人を必要とする貸与型奨学金は本人だけでなく家族にも重圧としてのしかかり、学生の進学や卒業後の進路を大きく限定させるばかりか、返済に追われてその後の生活が立ち行かなくなる事例すらもあります。
また、そもそも生活費に加えて年間50万円超の学費というのは日々の学問研究に打ち込む学生が個人で賄うことは非常に困難な金額であり、基本的に家族の協力が不可欠なものです。これにより家族から学生への抑圧が発生する原因となります。進路への口出しにとどまらず、言うことをきかないならば学費を出さないという形で経済的ネグレクトがなされる事例も珍しいものではありません。近年盛んに言及される「毒親」「親ガチャ」という言葉も、このような社会状況を反映したものと言えるでしょう。大学に行くこと自体「子どもへの教育」という投資商品としての意味合いも強化され、カリキュラムや学内政策がより管理強化されたものへとなっていき、学問の府としての大学の在り方自体が歪んでしまう原因にもなります。
学費の免除や給付型奨学金という制度もありますが、先のように経済的ネグレクトを受ける学生が要件を満たせなかったり、一定以上の成績が要求されるなど十全な制度とはいえません。(学費の設定をはじめとした学生の人生を「保護者」と紐づけて身動きを取りづらくする文教政策は、学生運動が激しく起こった時代への「反省」という一面もあります。)
これらのことから、大学生である間に安価な学生寮で生活することは、在学中の可処分時間を大きく増やすだけでなく、人生の選択肢にまで大きく自由をもたらします。
そして”自治”寮に住むということは、受け継がれてきた理念や精神に触れ、未来の学生のためにも寮を残していくことを考えることでもあります。「自分がいる間は安く住めて助かった」で終わらせてはいけない価値と役割が、自治寮という場所にはあります。
たとえば、以下の吉田寮自治会による声明は自治と福利厚生が不可分であることを示すすぐれた文書のひとつです。
https://www.yoshidaryo.org/archives/seimei/495/
空間に対する自己決定の自由
日就寮では自分の寮に関する様々なことを、居住する当事者である寮生の議論によって決定し、寮生の手で運営しています。その範囲は居室や集会室の使用方法、喫煙のルールといった空間の使い方から、寮内の新歓や定期的なイベントの運営、また入寮募集活動などの寮を残していくための活動の方針策定まで多岐にわたります。
壁に残る歴代の寮生たちの落書きは、自治による自由を象徴し、最も雄弁に語るものかもしれません。
このような自分達が裁量を持てる空間というものは、後にも先にも決して多くはありません。実際に住んで、遊びに来て、この自由な空間がもつ豊かさを肌で感じてほしいです。また、この空間は自分の手で更にどこまでもよくしていけます。自治寮はみなさん次第で面白くなる場所です。
女子学生の方、外国籍/留学生の方、そして日本人男子学生の方へ
はじめに―日就寮だけがやっている自主募集
皆さんがいま読んでいるこの公式サイトは、日就寮に住む寮生自身の手によって作られています。受験会場で皆さんに直接パンフレットを配布をしているのも寮生です。皆さんからの入寮希望書類を受け取るのも、それを読み選考するのも寮生がやっています。
2000年代中頃ぐらいまでは、東北大学の寮はどの寮もこのような自主募集を行っていましたが、現在では他の寮の寮生は大学当局が募集選考しています。私たちが一貫して自主募集を続けているのは、「入退寮選考権」というものが学生の権利を守るために欠かせないものであると考えているからです。
なんのため?入退寮選考権
日就寮は『学問の自由』『機会均等を守ること』を理念の一つとする厚生施設・学生自治寮です。換言すると、寮を必要とする学生が安心して生活できるようにすることを、自分たちの手で運営することによって保障する場所です。入退寮選考権はこれを守るために非常に重要な役割を果たします。
入寮
寮生が選考を行うことによって、経済要件などの画一的な基準によって弾かれてしまうようなことを防ぐ柔軟な対応ができます。例えば、家族には十分な収入があるにもかかわらず、経済的ネグレクトによって学費や生活費の支払いを拒否されたり、奨学金の保証人を引き受けてもらえない人などもいます。様々な事情から寮を必要とする人々を受け入れられるようにすることは寮としての責務だと考えています。
また応募についても締め切りなどを定めていないので、大学当局が募集する他の寮の応募期限が過ぎていたり、学期途中で緊急の必要が出た場合でも対応可能です。
退寮
これは不当な理由で退寮させないという意味合いが大きいです。『東北大学学寮管理運営規定』という大学当局が定めたルールがあるのですが、その中では第10条の在寮年限(学部学生にあっては修業年限、大学院学生にあっては標準修業年限の範囲内とする)を超えたとき / 寄宿料又は第16条に定める経費を3月以上滞納したとき などには「速やかに退寮しなければならない。」
その他学寮における共同生活に著しく支障を来す行為があったとき / 6月を超える休学又は留学等に該当するとき などには「管理運営責任者は、学生生活支援審議会の議を経て退寮を命ずることができる。」
と書かれています。
誰しも緊急でお金がなくなることはありえますし、そんな時にこそ学生寮が必要です。
留年、休学、留学はどれも学生の権利 です(たとえば京都大学学生総合支援機構の留年についてのページがよいことを言っています)。特に留年については人ごとに様々な背景があるものであり、家族からの支援も難しくなることもままあります。
「規定」が適用された例として、2014年7月においては、明善寮内で生じた飲酒問題を名目に、飲酒をしていない者も含めた全寮生を2か月後の9月末までに強制退寮させる通知を出すなど、寮生の生活を無視した強硬的な判断が行われる事がありました。当時の明善寮委員会は、入寮したばかりの1年生だけでも寮に残すよう交渉していましたが、聞き入れられませんでした。
例えば「規定」の標準修業年限などについて、厳密に学寮に住む一人一人をチェックして留年している場合には退去させるというようなことは、行われてはいないと思います。しかし規定が存在するということは、大学当局は恣意的な判断によって先の例のような決定を行ってくる可能性があるということに他なりません。
私たちはこの「規定」は不当なものであり、私たちの入退寮選考権を侵害するものとして歴史上受け入れていません。そして入退寮選考権を保持し、自主募集を貫くことによって入寮者の生活を守っています。
「入寮資格」
さて日就寮はこれまで、学生のための福利厚生施設として、経済的理由を中心に様々な困難を抱えた数多くの「日本人男子」学生の受け皿となってきました。日就寮があったから大学に通うことができたと話す卒寮生も多くいます。しかしその裏には、入寮希望を受けながら受け入れることができなかった多くの女子学生や外国籍/留学生の方々がいました。
このパンフレットを受け取ってくださった女子学生の方や外国籍/留学生の方、またその中でも特に学生寮を必要とする方、日就寮に入寮を希望してくださる方には申し訳ないのですが、今でもまだ日就寮では入寮を受け入れることが難しい状況です。
入寮の難しさ
大学当局が日本人男子学生以外の入寮を認めないということが最大の障壁です。認めないということ自体、日就寮の持つ入退寮選考権を侵害する不当なことですが、入寮した場合「不法入寮 となる」とまで記述しています。
大学当局がここまでの記述をするのは、2013年度における日就寮の「オールジェンダー化宣言」 を受けてのことです。私たちはあらゆるジェンダーの学生を受け入れるために必要なことを考え、既に男女混住を実現している全国の大学の学生寮から学び、卒寮生からのカンパによってユニットバスを設置するなど設備面でも準備を進めていきました。実際に複数の女子学生から応募も受けましたが、私たちの力不足により大学当局に認めさせることができず、彼女らの入寮を実現させることができませんでした。その後も現在に至るまで、女子学生の方から何度も入寮希望を受ける機会がありました。
また、留学生は日本人学生と比べて住居を確保するのが非常に難しいにもかかわらず、東北大学は留学生のための寄宿舎の整備が不十分であり、毎年何人もの生活の困難を抱える留学生が「入寮させてほしい」と寮に相談しに来ています。日就寮は過去に留学生を入寮させたことがありましたが、研究室の教授などを介して大学当局からの圧力があり、当人は退寮するという決断をせざるを得ませんでした。
これからについて
読者の皆さんの中には「女子学生に対しては女子寮である如春寮が用意されているのではないか。」と思われる方もおられるかもしれません。しかし、先に説明したような「入退寮選考権」を中心とした学問の自由の保障は女子学生に対しても同様に必要なものに違いありません。
また、この文章では一貫して「女子」学生という形で呼びかけを行ってきましたが、この世界にはどちらの性にも属さない学生がいます。あるいは、専ら社会的な理由から「女子」寮に入寮できない女子学生がいます。同様に「男子」寮に入寮できない男子学生もこの世界には確実に存在しています。現状の東北大学当局はそうした学生に対して福利厚生施設たる寮を開くことを拒んでいます。彼ら/彼女らに対しても福利厚生が必要であることは言を俟ちません。我々の「オールジェンダー化宣言」(2013年)は文字通り全てのジェンダーを持つ学生のための宣言です。
日就寮は「全ての学生の就学の権利を保障する」ことを理念の一つとしています。それは性別や国籍に拠らない全ての学生に対してです。目の前に困難を抱える学生がおり、寮の部屋も空いているのに、受け入れていけない理由はないはずです。全国には、部屋のキャパシティを超えてでも寮を必要とする人を受け入れている自治寮もあるぐらいです。
私たちは掲げる理念の実現のために要求をしていきます。
議論の文化
日就寮の寮生総会には「全会一致の原則」というものがあります。寮生総会の場では、安易に多数決に頼るのではなく、相手を説得させることができるように自分の意見を筋道立てて説明することが求められます。また、寮で何かを決定するということは、誰かがそこで生活を続けられなくなる可能性があります。寮を選んでやってくる学生には、経済的理由から寮にしか住むことのできない人が多くいるので、多数派が誰かの住む権利を奪いかねないような制度はふさわしくありません(たとえば寮費の値上げなどがこのような議論の対象です)。もちろん、無限に議論することができないので、最終的に多数決で決定することはありますが、それでも議論が尽くされた結果として行うこととなっています。
行事
日就寮の行事
日就寮には寮単位での行事があり、寮生活に彩を添えてくれます。他の寮と違うのは卒寮生が参加するような行事もあること。たんに寮生間の親睦を深めるだけでなく、昔の寮の話や様々な分野で活躍する寮生の話は刺激的で、将来の進路の参考にもなります。
寮生総会以外の寮の行事への参加は強制ではありませんが、楽しいのでぜひ参加してください。
年間行事次第
3月末 | 入寮者受け入れ |
4月上旬 | 新歓オリエンテーション |
4月中旬 | 新歓コムパ |
4月末 | 大掃除 寮生総会 |
5月末 | 寮生総会 |
6月中旬 | 逍遥(実施未定) |
7月中旬 | ジェット流しそうめん |
8月上旬 | ビールコムパ |
10月上旬 | 寮生総会 |
11月上旬 | 寮生総会 |
11月中旬 | トリンケンコムパ |
新年 | 餅つき |
2月末 | 前期試験入寮募集パンフ配布 |
3月中旬 | 追い出しコムパ |
4大コムパ
日就寮の行事の中で特に大切なのが4大コムパです。4大コムパとは新歓コムパ、ビールコムパ、トリンケンコムパ、追い出しコムパのことです。このコムパには卒寮生も全国から駆け付けてくれます。
新歓コムパと追い出しコムパはその名前の通り、新入生を迎え入れ、卒寮生を送り出すもの。
トリンケンとはドイツ語で「飲む」という意味だが、ここで飲むのはビールではなく日本酒。
ビールコムパは前期の試験が終わった後に開催。ビールサーバーを用意して、ビールを飲むと暑さも吹き飛びます!
逍遥
震災後はほとんどやっていなかったのですが、復活させようとしている行事。深夜に海岸に集合し、キャンプファイアーを囲んだあとに寮まで歩く。
ジェット流しそうめん
こちらもコロナ以降やっていませんが、寮の4階からそうめんを流すという企画。
餅つき
新年に大きな杵と臼で餅をつく。今時なかなか餅をつく機会ってないよね。卒寮生がふらっと立ち寄ることもある。
副委員長コムパ
行事担当の副委員長が、自分の裁量で企画して行う行事。副委員長のセンスが光る場。近年あった行事だとこういうものがある。
ソムリエコムパー高いワインと安いワイン、そしてウェルチをどれがどれなのか隠して飲み比べ、高級な順に並び変える。正解者には賞品。
クリスマスコムパークリスマスを祝うイベント。おいしいご飯が並ぶ。
クリスマス粉砕コムパー反クリスマス派が開催するイベント。ケバブやマトン煮込みなど、イスラム圏の料理が並ぶ。