【前編】クラブ日就 DJ インタビューズ 


「クラブ日就 DJインタビューズ」は2022年12に行われた第1回クラブ日就の関連企画である。筆者のK.YがもっとDJとかクラブパーティを知りたいという動機、あるいは日就寮のTwitterのフォロワーやブログの読者、はたまた同じ寮に住む寮生に”知ってほしい”との思いから企画したものである。

今回のインタビュー本編は単にクラブ日就の回顧に留まらないクラブ文化の基礎的な話から、いま行くべきクラブを地方から海外まであつかっている。また、音楽をいわゆる“ディグる”方法をこの言葉の元となったDJから直接聞いたという意味でありがたいし、はては高校生がラジオで番組を持つ方法まで色々と知ることができる渾身のお役立ち記事となっている。前編後編とある。後編のラストにはO-Kenから最後まで記事を読んでくれた読者のために“素敵なお知らせ”があるので最後までお付き合い願いたい。

N.Yuhei主催パーティ2/17「Dança vol.2」フライヤー

今回のお相手はN.Yuhei 氏である(一番上の画像の人物)。東北大学オーディオ研究部部員で現在経済学部1年生であり、青森出身とのこと、大変に音楽的造詣が深くDJ文化にも詳しくアツい。本編でも分かるように氏の協力なくしてクラブ日就は成り立たなかった。

ちなみにインタビューア―の紹介もしておくと、

・筆者ことK.Yは会計大学院所属でBoA のファンであり建築家に本当はなりたい。 寮で5.1ch オーディオシステムの実現が目標である。長野出身。 それと、連れてきた寮生のO.Kは文学部生である。 映画研究/映画制作を本懐としており、 Nowsreelという団体の発起人である。出身地については「あー、そもそも出身地ってどういう定義ですか、あっちこっちに住んでたので。なんでもいいなら岡山がいいな」 ということで岡山出身。


N.Yuhei氏インタビュー(前編)

日時 2022年12月23日 場所 仙台市某チェーン喫茶店

目次

  • O-Kenとの接触
  • N.Yuhei氏の驚愕のバックグラウンドについて
  • 最重要概念オト箱/チャラ箱
  • クラブでの過ごし方 「空間」
  • クラブ日就について

(K.Y)本日はわざわざありがとうございます。そして前回はクラブ日就で DJ をしてくれて本当にありがとう!  さて、今日は東北大学オーディオ研究部(以下 O-Ken と略す)の DJ である N.Yuhei さんにインタビューしたいと思います。なぜ今回Yuhei さんにインタビューしたかといえば、O-Ken と日就寮とを繋いでくれたからにほかなりません。Yuhei さんのご尽力があってクラブ日就ははじめて実現しました。

O-Kenとの接触

(K.Y)先に聞いておきたいことがあります。私はO-Kenにファーストコンタクトをとりに東北大の学祭にいきました。そのときYuheiさんが番をしていました。DJ について色々と聞いたり寮に来てほしいなどと相談をした覚えがあります。見知らぬ学生が来てあれこれ質問するので驚かれたかもしれませんが、そのときどのように感じられたのでしょうか。予想外にこちらの話をすぐ理解してくださったので逆に拍子抜けしてしまいました(日就寮だし)。

(N.Yuhei) 実をいうと日就寮さんの存在は以前より認知していたので、O-Ken と何かタイアップをした動きができないかは結構考えていました。京都の Club-Kumano の例もあり、学生シーンを作っていく上では自治寮とのコラボレーションが非常に魅力的な一手であるというのが、私の思いです。

(K.Y)そうなんですね。たしかに京都の自治寮事情ついて色々と知っていてそこも拍子抜けでした。個人的には先を越された感がありますが、熊野寮の人たちにもクラブ日就をやるにあたりアドバイスなど頂きましてお世話になっております。さて、本日はクラブ日就の話のほか、そもそもクラブってなんなの?とか DJ ってどんな人がなるの?とかどんな音楽をやっているの?など色々気になることをインタビューしたいと思います。

N.Yuhei氏の驚愕のバックグラウンドについて

(K.Y)さて、さっそく色々と聞いていきたいと思います。私はそもそも、学生がどういうきっかけでDJを始めることになるのか非常に気になっています。
ということでまずは Yuhei さん自身の音楽的バックグラウンドについて聞かせてください。

(N.Yuhei)小さい頃は親がもともと聴いていたジャズや、Original Love などの90年代 J-POP をきいていました。 小学校高学年ごろから Youtube などで自主的に音楽を探すようになって、そのうち流行りを当てるだとか、次のブレイク予想を始めたりだとかをしていました。

(K.Y)予想で上手くいったものとかってありますか?

(N.Yuhei)例えば、ビルボードのチャートの動きをみてこの曲はそろそろピークがくるだろうなとか、自分の考えたトップ4を当てたりしていました。

(K.Y) 僕も小林克也がやっているベストヒット USA というBSの番組を観ていて、中学生の時はトップ20は全て聴いていました。

(N.Yuhei)BS11でしたっけ?(笑)。他にやっていたことといえば、CD ショップ対象のノミネート作の予想とかですかね。選考基準の分析とか、その時期のモードとかから予想して、大体半分くらい的中するみたいな感じでしたね。

(K.Y)情報はネットで仕入れている?

(N.Yuhei) そうですね。自分の地元の青森は次に来るアーティストを扱うようなCDショップがあまりないんですよ。 だから Youtube とにらめっこをしたり、地元のラジオ局では J ウェーブのラジオが流れる時間帯があって、それ聴いたりして。

(K.Y)僕もラジオは聴いていて朝4時ぐらいから Memories & Discoveries という番組なんですが、2時間ノンストップでいろんなジャンルの音楽を聴いています。昼間のラジオではあまり目ぼしい番組はないような気がします。

(O.K) 片山杜秀の「クラシックの迷宮」があります。片山の本職は慶応の政治学の教授なんですけども。

(N.Yuhei)扱っている音楽にはラジオ局により特色があるんですよね。例えば東京 FM 系列や AM ラジオは規模が多いので、 選挙区が比較的皆が知っているラインに絞られてしまいますね。

(O.K)ところで、青森と仙台では CD ショップどれくらい違いますか

(N.Yuhei)例えば仙台なら、タワレコや HMV 等だけでいくつか店舗がありますし、 新星堂やバンダレコードなど10店舗ぐらいあります。青森は HMV とタワレコが2店舗しかなくて、あとは品揃えの薄い TUTAYA とかですかね。 

ラジオの話に戻りますが、青葉区のコミュニティFMの RADIO3 で夜10時以降 J ウェーブの最先端の音楽を扱うプログラムをやっています。

(K.Y)コミュニティ FM の方が攻めていると!?それは意外なことです。

(N.Yuhei)コミュニティ FM は東京 FM 系列が放送できません。代わりに J ウェーブ系列がよく使われるんです。よく聴いていたのは平日3時から5時までかかっている TOKYO M.A.A.D SPIN。この番組は東京のクラブシーンにフォーカスしています。ポップス系のチャラめのところからヒップホップ系、ダンスミュージック系まで曜日ごとに違うDJが担当していて、1時間のトークと1時間の DJ ミックスという構成が主流です。青森に住んでいた時はどうしても都市部の生の情報を得づらかったため、カルチャーの話や情報集めに重宝していました。

(K.Y)DJはいつからはじめたのでしょうか。

(N.Yuhei) 機材は中学生の時に買いました。今のスタイルは高校生のときからです。

最初は EDM から入っていって派手な音楽を一巡したあとに Deep House というジャンルに出会って、そこから DJ をはじめました。親が聴いていた Jazz と近いなと感じたんです。少しの音の変化の機微やじっくり聴かせるところが良くて DJ を本格的に始めました。地元のクラブに遊びに行ったりしてて、大学時代は DJ に打ち込みたいなと思うようになってましたね。

また、高校生の時は軽音もやっていて、ギターボーカル&部長って役回りでした(笑)。あとはライターチックなこともやっていて、note に週に一回投稿といった感じで……。高校時代はいろいろと忙しかったので、毎日投稿というのは非常にハードルが高く感じたので、クオリティ重視で執筆していましたね。今ではアカウントを消してしまったのですが、合計で8万回ほど読まれていて、自分でも当時はやりがいを感じていました。

(K.Y)どういう内容なんですか

(N.Yuhei)確か Fred again…という日本ではまだ知られていないアーティストについて書いたときが一番読まれて、2万回ぐらいヴューがつきました。あとは地元でラジオパーソナリティとして番組を持っていたので、(note に)記事を出してラジオで曲を掛けるということを高2から高3の受験期前まで、それから入試後に仙台来るまでまたやっていました。

(K.Y)ラジオ番組をやってたって、それはちょっとすごすぎる。その話をぜひ聞かせてください。

(N.Yuhei)本当に縁だったんですよ。まず、高校の時に軽音やってたんですけど、そこに日曜夜八時から地元のラジオで高校生に好きに喋らせるみたいな番組の枠があって。イッテ Q や大河ドラマの裏だったのでなにやってもいいと。そこで自分は(軽音の)相方と二人で音楽を掘り下げるような話をしてました。たまたまそれが別の番組を作ってた人に面白がってもらえて。「連れてきなよ」という風な感じで日曜の17時から一時間半生放送をやる番組に呼ばれて……といった流れですね。

(K.Y)なるほどよくわかりました。やっぱり実力があると観ている人がいるものですね。

最重要概念 オト箱/チャラ箱

(K.Y)次の質問に移りたいと思います。私の方で色々と調べるうちにクラブという存在が案外いろんなところにあるということが分かりました。例えば私の地元なんかにもあって高校の先輩にあたる人がやっていると聞きました。ついクラブとかDJとかいうと華やかな大都市にしかないようにおもってしまいますが。

(N.Yuhei)ここでそもそも、クラブカルチャー疎いヒトに知ってほしいことがあります。クラブといっても2種類あるっていうことがとても重要でして。チャラ箱と音箱の違いです。前者のチャラ箱というのは、いわゆるナンパや出会い目的のクラブ。後者の音箱が自分達オーディオ研究部もやっているもので、音楽が好きで音楽にこだわりがある人が集まるところです。

(O.K) 割合はどのくらいなんですか?

(N.Yuhei)やっぱりチャラ箱の方が多いですね、7割8割ぐらいかな。チャラ箱はの特徴は分かりやすい。掛かっている音楽も分かりやすいしナンパ目的に行くというのも分かりやすい。ですがサウンド面に関しては箱によりけりで、機材もちゃんと管理していない場合があります。

(K.Y)クラブと言ったらいわゆるチャラ箱のイメージでした。以前クラブ日就の打ち合わせをしたときも「あそこはチャラ箱で」みたいなことを仰っていましたが、全部チャラいんじゃないのかとか内心感じてましたが。両者の違いは重要なんですね。

(N.Yuhei)クラブなので、音楽を聴くだけじゃない、コミュニケーションを前提としたものだから出会いがないという訳じゃない。ただ音楽がメインでそこから生まれるコミュニケーションがあるというのが音箱です。

クラブでの過ごし方 「空間」

K.Y)なるほど、読者の皆さんも違いが分かってくれたのではないでしょうか。ここでお聞きしたいことがあります。「クラブでの過ごし方」みたいなことです。我々が開催したクラブ日就でもそうでしたが、いわゆるライブイベントと違って、クラブイベントの場合はずっと音楽を聴いて踊りっぱなしという訳でもないと感じています。何か食べたり話したり空気を吸いに行ったりと。そこがクラブ化の特異なところで、縛られずに自然体でいられるのが良いと感じました。

そのように感じているところなんですが、DJの側からするとどうなんでしょうか。出番がだいたい一時間あるとして、本当はその間ずっと盛り上がっていて欲しいのかそれともある程度の波があることが前提なのか、その辺をお聞きしたいのです。

(N.Yuhei)結論から言うと、時間帯によります。一時間ずっと踊っているのって大変じゃないですか?そもそもクラブのパーティは6時間とか長いわけですから。長いスパンでみれば「いま盛り上げるのは違うな」と思う時があります。お客さんのテンションを DJ が如何に汲み取るかは結構大切で、優しく踊る時間帯はやっぱそういう選曲をすると喜ばれますよね。夜の盛り上がる時間帯、1時とか2時のピークタイムはしっかり踊れる音を鳴らしたいし、パーティの終わりの方になれば踊るのはしんどいなっていうのがあるし。

(K.Y)たしかに。O-Ken の部員の方も外に出て休憩したりとかも全然していたし、それが過ごし方なんだなって。感じたのがクラブでは「その場にいる」っていうことが大事というか、特になにもせずともなんか一体感をなんとなく感じるというか。1人で来ても慌てる必要のないボーっとしていてもいいような空間なのかなって感じました。

(N.Yuhei)いま「空間」とおっしゃってくれました。自分の考えなんですけど、クラブにいったらエントランスで入場料を払うじゃないですか。じゃあそこで提供されるものは何なのか、自分はそれこそ「空間」が提供されるんだと思っています。

だからこそ実際にパーティを創る側としては、如何に居心地のいい空間を創るかが大事だと考えてやっています。ずっとアゲアゲなのはしんどいし、静かすぎてもなんか違うし、そこらへんは DJ やそのパーティを創る側が空間に「配慮できるか」ということだと思いますね。

クラブ日就について

K.Y)関連して少し喋らせてください。クラブ日就でも DJ をしてくれた O-KEN の部員の方と話すことがあって、目標の集客人数を話していて、50人ぐらいという数字で偶然一致しました。  50人となると少し手狭にみえますが、休憩する人のことを考えるとそれぐらいがいいと感じます。

あと、クラブの空間もそうですけど、クラブ日就に来てくれた人には寮それ自体にも興味を持ってくれたら嬉しいと思っています。実際、外部から来てくれた人はみんな寮の生活「空間」の方にも興味を持ってくれて、寮生が案内したりすることがあってよかった。DJがいるフロアを中心にいろんな交流が生まれるとよいなと考えております。

あと、軽音でバンドをやってる寮生が、「内輪ノリがいい」とあえて言っていました。 前提としてクラブパーティに親しみのない人にとってしたら、いきなり始められてもノって踊るのは難しいと思います。僕ら寮生も呼んでいるホストの側ではあるんだけど、半分外野というか、僕のたてた企画に協力してくれていた面がおそらく強くて、パーティのノリはさっぱり分からなかった。けれどもプレイ中じゃない O-Ken の方が内輪でとりあえずアゲて踊ったりしているのをみて、寮生もつられてどんどん踊るようになってました。そうしたノリは、外へ外へと伝播して外から来た人もどんどん踊ってくれました。緊張がほぐれたノリが生まれたよい空間になったと思います。

(N.Yuhei)クラブって空間という話をしましたが、人と人との交流がある以上そこは一つのコミュニティになると自分は考えていて。ライブハウスと違って、DJもパーティを構成する一人の人間であって、単なる出し物ではなくてコミュニティの成員です。だから内輪とか外野ではなく来てくれたからには皆内輪だし、DJとか運営とか客とかではなく皆が楽しい空間になればいい。実際、前回のクラブ日就がそうであったなら、クラブ日就は成功なのかなと思います。

(K.Y)最後の方はみんな一体になって踊っていたし、そうなっていると思います。

クラブ日就を最初考えたとき、独りで来た人でも楽しめるようにしたいという思いがありました。実際にあった事前のアンケートでも「独りできても楽しめますか」というのがあって、その時はなんて返そうか迷っていましたから、寮生には声かけてねとか言っていました。けど実際には、あえて気を使ったりしなくてもみんな踊ったり交流していたという印象です。けれどこれからはそもそも前回が良い空間になったので自信をもって来てくださいと言いたいと思います。

(N.Yuhei)O-Ken や日就寮など、私たちのパーティが目指すべきところは、来てくれた人全てに「(自分が)入ってもいいコミュニティなんだ」と感じてもらえることだと思います。

(K.Y)同感です。ただ実際には日就寮に限らず自治寮ってどう考えても入りづらい。うちは普段から「開かれたコミュニティ目指します」と言っているし、みんな親切な対応ができているとは思うのですが。ただ来る側からしたらやっぱりきっかけも掴みにくいだろうし、昼間は寮生もあまりいなかったりする、だからクラブイベントをやろうと決めました。やってよかったと本当に思います。

(後半に続く)